「あの島にも名前がついているのかな?」

波打ち際に立って水平をみる。凪でもなければ高波でもない海の水平。船一隻さえ浮いていない。この先に何があるのかを知らなければ好奇心が持てるかもしれないけど、僕はこの先の島の名前を知っている。

足底の砂が引き波に攫われていく。足趾が浮いて居心地が悪い。あと何回の引き波で足場がなくなるのだろう。

 

別れ際に振り向いてはいけない

別れ際に振り替えってはいけないってわかっているけれど誘惑に負けてしまって振り返ると君はあいも変わらず手を振ってくれる。

いつまでも一緒にいたいと思える人。

手を振る君にまだ一緒にいたいと口に出しそうになって口をつぐむ。

プラットニックでいるためにはその時になんて口にすればいいのかな。

 

一緒にいることが間違えなのかなって思うことも増えた。ただ君が幸せで居てくれればいい。

僕と居て君が幸せであるようにも思えなくて、別れても未練を感じてくれることはないだろう。

だけど、別れないのは僕だけがいつまでも君と一緒にいたいと思っているからで、それ以外の理由はないと思う。

 

僕のエゴが君を傷つけ続ける。なんだか消えてしまいたいな。

 

 

時に手をひかれて、流れを思い出す

きっと一生忘れずにいれるだろうと感じる瞬間があった。それを思い出す瞬間に立ち会った。何で忘れてしまったのかなと疑問に思うんだけど、それはまた一生忘れられない瞬間に立ち会ったからだろう。

 

こんな事が高校生時代の手帳に書かれていた。今のわたしにはどのような瞬間だったのか思い出す事はできない。また、出会えるだろうか。もしかしたら、普遍的な瞬間に高校生の僕は気が付かずにこのようなことを書いてしまっていたのかもしれないとも思えてくる。出会っても気が付かないようになってしまったのかもしれない。世界が段々と単純になってきたように最近は思う。

白い肌に透けた静脈をなぞる

明日には、死んでしまっているような気がする。世界情勢やパンデミックが影響したこの空気のせいかもしれない。僕は明日も生きていると自信が持てない。今日の後悔はあなたに会えなかったこと。幸福に感じれたことはあなたと会わず流行りのウィルスに感染させずに済んだこと。アンビバレンツだ。本音は前者で、理想が後者であるのだろう。だけど後者は口実ではない。

窓に露わな指紋

前に無くしてしまった本を古本屋の特価棚で見つけた。ゴシックのアンソロジーで特に女子高生のゾンビが登場する話しが良かったと記憶している。もう一度、読みたかったから嬉しい。

本を買って、店を出ると夕方の帰宅ラッシュで街は忙しい。僕も忙しい1人になって満員電車に飛び乗った。背負ってたリュックでスペースを作って本を開く。目当ての話しを探したけれど見当たらない。何度もページをめくって探すけれど見当たらない。僕の記憶違いだったみたいだなぁっと肩を落として、本から顔を上げると電車の窓に結露で露わになった指紋がベタベタとついていた。

意志とかく在れと

 大学1回生の春、君と初めて会った日、物心つく前の記憶のような画質で網膜が君を写した。

 君に声をかけて少しだけ談笑をすると「なんだかあなたに見覚えがあるの」と君が呟いた。その時、僕は確信を持って運命を信じられた。

 帰りに新宿駅のプラットフォームで電車を待つ。「こんな感じで帰るのが初めて」と君が呟くと僕は気がつかなかったフリをした。

電車が来る。夕方の帰宅ラッシュで混雑していた。席を譲る。

 プラットフォームで聞いた言葉が永遠と脳内でリピートされる。10駅ほど通り過ぎた時にやっと席が空き、隣に座った。話したいことは山のようにあるのに臆病風に吹かれて、近頃の天候の話題しか挙げられなかった。意思を持って行動しなければならないと太宰は言った。僕には意思は持てず運命に身を任せるしかなかった。