意志とかく在れと

 大学1回生の春、君と初めて会った日、物心つく前の記憶のような画質で網膜が君を写した。

 君に声をかけて少しだけ談笑をすると「なんだかあなたに見覚えがあるの」と君が呟いた。その時、僕は確信を持って運命を信じられた。

 帰りに新宿駅のプラットフォームで電車を待つ。「こんな感じで帰るのが初めて」と君が呟くと僕は気がつかなかったフリをした。

電車が来る。夕方の帰宅ラッシュで混雑していた。席を譲る。

 プラットフォームで聞いた言葉が永遠と脳内でリピートされる。10駅ほど通り過ぎた時にやっと席が空き、隣に座った。話したいことは山のようにあるのに臆病風に吹かれて、近頃の天候の話題しか挙げられなかった。意思を持って行動しなければならないと太宰は言った。僕には意思は持てず運命に身を任せるしかなかった。