優しすぎる人

ところで彼女が僕をほんとうに愛しているかどうか、僕には知る余地がない。

 

デートの予定が恋人の体調不良で急に中止になった時、心配な気持ちでいっぱいになるはずだった。それなのに今回はなんだかそんな気持ちにはなれなかった。

あなたは僕のこと純粋で優しすぎる人だと言う。けれど、僕は純粋さも優しさも欠けた人間だからあなたの言葉の意を正しく汲み取れてしまう。

ただ、疑わず信じることができる心があったのならばどんなに良かっただろう。

気がついていたけれど気が付かないフリをする

秋葉原のメイン通りを一本入ると喧騒を忘れたように静かだ。自粛の影響もあるだろうけどメイドの客引きも少ない。夕食に友人とケバブ屋に立ち寄る。テイクアウト専門で店前にベンチが並べらていてそこに並んで腰をおろす。ふと見上げると高いビルとビルの間で狭窄した空は灰色だった。この前読んだ詩の一節に夜空は最高密度の青と書かれていたことを思い出す。そのようにポエジーな世界だったならきっと僕の悩みは消えるだろうな。

文字を眼で追う

文章を読む時に声を出すよりも眼で追った方が速いと気がついたのはいつだっただろうか。

古い記憶を辿ってみるがモヤがかかったように清明さに欠けてしまう。ただ、幼稚園の読み聞かせの時に、なんてタラタラと読む先生なのだろう(勿論、当時はこんな語彙をもたない)と感じていたことは確かな様なのでそれよりも前だろう。

選択肢に生じる幻肢痛

冬、高架の上。「満月だ」と子供のはしゃぐ声がどこからか聞こえる。ふと見上げると限りなく満月に近い月。

膨らませてあげられたらいい、そんなことを考えていると空気栓見つけた。異様に透き通った空に夢だと気がつく。

 

目を覚ますとカーテンの隙間から霞んだ月を見た。

 

 

思索的23時58分

初恋の子の誕生日だったことに気がついたけれど、あと2分で明日。

8年も会っていないのに思い出してしまった。彼女のことを忘れられたと思っていたんだけど、きっと来年には思い出さずにいられるはずだ・・・

 

なんて思いながら日にちを越していた。

ありふれたこと

時と共に色はあせる。どんな名画でも色彩は落ちていく。それは、記憶も例外ではない。だから色あせた記憶を着色する。忘れてしまわないように。出来るだけ近い色で。

だけど、同じ色で着色することはできない。きっと今、僕が大切にしている記憶は色を何層にも塗り重ねられて当時の色彩を保てていないと思う。

死なうは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたり遺すよの

先がないことを知っていながら言われるままに生きてきた。やりたいことなんて許してもらえなくて考えることをやめてしまった。そのせいか、今では何がやりたいのか何にもわからない。何かやりたいことを見つけたとしても先がないとわかっているから見つけたくもない。

こんなことを親友だと思っていた人に打ち明けたことがある。親友は自分の怠けた生き方を今更、人のせいにするのは良くないと言った。きっと彼は素敵な人生を送ってきたのだろうと感じた瞬間から一緒にいたくないと思った。

今では他人だ。